感想

伊坂幸太郎著 フーガはユーガを読んで 【感想】

11月9日に発売されました「フーガはユーガ」を読んだので感想を書きます。

あらすじ

風我と優我は双子の兄弟です。
暴力的な父親と、子供に関心のない母親の元二人で支えあって暮らしています。

5歳の誕生日に弟が父親から殴られているのを助けようとした際に、二人の場所が入れ替わる現象が起きます。
以降、毎年誕生日の日には1時間おきに二人の場所が入れ替わるようになりました。

物語は、双子の兄 優我が、入れ替わりの映像を入手したフリーのテレビディレクター 高杉にインタビューを受ける形式で進んでいきます。
年に1日、双子の場所が入れ替わるという特殊能力を持つ双子が協力して、敵対する存在に立ち向かうストーリーです。

感想(ネタバレあり)

物語の中心は、双子の兄弟「フーガはユーガ」。運動が得意なフーガと勉強が得意な優我。
性格も対照的でお互いがお互いを補完するような関係です。
双子は両親に恵まれておらず、頼れる大人はリサイクルショップの女店主のみ。
双子で協力し、双子の力で自分たちを害する存在に立ち向かう。

設定は何の変哲もない、下手をすれば児童書にでもできそうにも思うが、伊坂幸太郎氏にかかると、斬新なミステリーとなる。
個人的には、伊坂幸太郎さんの作品にしては、ファンタジー要素が少なく、シンプルにわかりやすいという印象を持った。

一番面白いと思ったのは、主人公が取材を受けている形式で、過去の事象を説明していること。
主人公は自ら、「自分の話には嘘や省略がたくさんある」と宣言する。
これば、物語上の意味だけでなく、作者から読者への説明のようにも思える。
ミステリー小説を読む際に、登場人物の証言というのは意図的に虚偽や省略をすることで、読者をミスリードすることが多い。
本作では、読者にたいしてそれを宣言しているようだと感じた。
読者は、取材を行う記者 高杉と同じ状況で優我のは泣きを聞き、優我の狙い通りに話が展開する。

入れ替わりというのは、絶妙な力だと思う。
双子が協力しないと、ただの厄介な現象となり、使い方によっては大きなことができる。
その力だけでは、力のある者や社会の権力に抵抗することは難しい。
双子が協力し、かつリスクをとり抵抗する姿勢を楽しんだ。
伊坂幸太郎さんの描く悪者は怖い。
本作では、父親、裏のショーの主催者、高杉と悪者が出てきますが、みんな強い。
子供にとって父親は大きな存在で、ショーの主催者は金持ち、高杉は金持ちの子で、みんな揃って狡猾、残忍。
力だけでなく、考え方の怖さがありリアルで、背筋がぞっとする怖さがあります。
そんな、敵に立ち向かうには入れ替わりの特殊能力は貧弱にも思えるが、能力だけでなく、弱者が頭を使い、度胸一発抵抗し、最後には勝つというのが心地よいと感じた。

読み終わって、全てがスカッとする結末ではなかった。優我にも幸せになってほしかったようにも思う。
少し寂しかったのは、取材に答えている形式のため、登場人物があまり多くなく、会話が少ない印象であったこと。
個人的に、伊坂幸太郎さんの作品のすきなところはシリアスな展開の中に挟まれる会話だったりする。クスリと笑えたり、感銘を受けたりそんな会話が少ないのが淋しかった。
過去の説明なので、起伏が小さく淡々とした展開なのも淋しいポイントでした。

とても読みやすいが、ラストの展開は意外性があり面白い作品だと思う。
これまでの伊坂幸太郎さん作品が好きな人も、初めての人も楽しめると思います。